■患者団体とは異なる中間組織/機関の活躍


  患者・家族その他多くのステークホルダー間と横の繋がりをつくりつつも、どの関係者からも独立した「中間組織/機関」の立場で、希少疾患に関わっている2つの組織の代表も登壇した。


【当初目指した医薬品開発医教育からの拡がり】一般社団法人 医薬開発基盤研究所(Ji4pe:Japanese Institute for Public Engagement)は、患者および患者団体・患者支援団体、一般市民及び産官学すなわち患民産官学で医薬品の開発と適正使用への理解を共有し、エビデンスと価値観に基づく医療評価を推進する事業を行うことを目的として20年6月に発足した。


 代表理事の今村恭子氏は、『希少・難治性疾患の中間機関として』のタイトルで講演。整形外科医・医学研究者としてキャリアをスタートした後、20年以上製薬に携わり、95年から日本製薬医学会(JAPhMed)、16年からは国際製薬医学会(IFAPP)にも所属。「科学技術の価値はどれだけ社会的な利益をもたらすかによって決まり、社会を変えるための科学研究や成果の適用には市民が研究に歩み寄り、公共の課題に関わる必要がある」との信念に基づき、Ji4peを設立した。


 今村氏は、次のような各当事者の期待と課題が先送りされている現状を指摘した。

❶医療機関:患者・市民参画(PPI:Patient and Public Involvement)による医療の質の向上→医療機関の7割は赤字。教育や組織的支援が不足している。

❷製薬企業:治験の促進→社員教育への投資が減少。社員は分断化された作業に従事し全体像が見えていない。

❸国:臨床研究への患者・市民参画→教育への投資の選択・集中、教育課程やキャリアパスがない。

❹アカデミア:臨床研究の推進→研究に充てる時間・人手が不足。

❺患者・市民:新薬の創出とジェネリック医薬品の確保、健全な保険財政、納得のいく医療→参画機会が少ない。(PPIのアンケート等に答えても)フィードバックがない。人材・組織力・財力が不足。海外のように(医師や研究者に)「私たちがお金を出しますから研究してください」と言えるほどの、本当に強い患者会がない。


 また、日本には医療基本法がなく、治験における被験者が代わりに拠りどころとしている「ヘルシンキ宣言」も「医師による医師のための宣言」であり、定期改訂に関わっている日本医師会は治験・研究医ではなく診療者であるなどの不十分さを指摘した。


 さらに、薬機法第一条の六に「国民の役割(国民は、医薬品等を適正に使用するとともに、これらの有効性及び安全性に関する知識と理解を深めるよう努めなければならない)」が明記されていることも忘れてはならない、とした。


 欧米では、大学等が製薬の分野を志す医師向けの講座を提供しているが、日本ではそうした仕組みがない。今村氏は当初、「医薬品開発医」の育成を目指していたが、上述のような問題意識から、現在はより広範な事業を展開。業界・アカデミアを想定した「C.開発基礎知識コース」「D.開発専門家コース」に限らず、主に患者市民向けの「A.患者・市民のための人材育成(イントロ)コース」「B.組織リーダー育成コース」「E.心理審査委員育成コース」、さらには子ども向けの社会学習コースまで設けている。


【皆でつながり「ない/少ない」を「ある」に変える】特定非営利活動法人ASrid(Advocacy Service for Rare and Intractable Diseases’ multi-stakeholders in Japan、アスリッド)は14年11月、「希少・難治性疾患分野における全ステークホルダーに向けたサービスの提供」を目的に設立された。RDCJ設立以前から産患学官と一緒に議論し、どの関係者からも独立した民間の「中間組織(機関)」という立ち位置で「人をつなぎ、人に伝え、人とつくる」裏方としてのサポートに徹している。


 東京大学先端科学技術研究センターで、大学発ベンチャー企業によるオーファン薬市場の創造可能性や、発展に必要な人材、技術移転等に関する研究の経験がある西村由希子氏(ASrid 理事)は、08年5月に出席した国際会議の折りにRDD(Rare Disease Dayの話を聞き、10年に日本での初開催にこぎつけた立役者だ。


 西村氏は『ASridのステークホルダー共同研究と活動の展望』と題した講演で、希少・難治性疾患では、よくある疾患と比較して、医師・研究者と患者の認識が一致する部分が少ないと指摘。「“治りづらさ”の情報は医師に、“生きづらさ”の情報は患者に訊いて、一緒に情報やエビデンスをつくっていく必要がある」との考え方を示した。


 活動は要望に応じて柔軟に行っているためか、「ASridのサイトを見ても何をしているのかわからない」と言われることがあるという。具体的な事例は、成育医療研究センターとの協働による『医療型短期入所施設における医療的ケア児および家族のQOL調査研究』や、医療的ケアのあるこどもや重症心身障害のある子どもといっしょに楽しめる遊びやおもちゃの紹介サイト『ねぇ、あそぼ』の開設、オーファン薬市販後の調査研究に用いるアプリ・質問項目・マニュアル案に患者の意見を反映させた「患者側インプットによる臨床研究デザインの変更」、患者の声を今後の学会運営に活かすため「日本先天代謝異常学会(24年11月)への患者参加の実現」、患者側が中心となって実施する「2型コラーゲン異常症関連疾患の症状・身長・体重調査、インタビュー調査」のサポートなど。アンケートやインタビュー調査の場合、患者は自分が所属している患者会に対して率直な意見を言いにくいケースもあるが、ASridが仲介することで匿名性が確保されるメリットもある。


 各ステークホルダーだけでは、希少・難病性疾患特有のさまざまな「ない/少ない」を「ある」に変えられない。西村氏は「この領域の多様なステークホルダーが、少しずつていねいに関わり合うことこそが“エコシステム”」「そのための裏方として活動していきたい」と結んだ。