DNAは、単に遺伝情報をコードするだけでなく、シトシンとグアニンからなる配列「CpGモチーフ」が自然免疫を強く刺激したり、塩基の相補性や鎖の形状が生理活性を持ったりするなど、用途を広く持たせやすい分子だ。


 水中で混ぜると自律的に組み上がってハイドロゲルを形成するような人工DNA(オリゴデオキシヌクレオチド=ODN)の組み合わせも10年以上前に報告され、生理活性物質を担持して免疫原性をコントロールしつつ徐放するキャリアとして注目されてきた。


 ただ、その実用が近いかと言うと、塩基数が多くODNの種類も多いほど機能を設計しやすい反面、ODNの種類を増やすとCMC(製造・品質管理)関連のコストも一気に跳ね上がるトレードオフの関係があって、積極的に開発を進めている企業はないと見られる。


 そんな状況下、ハイドロゲルを形成するODNのミニマム化に取り組み、34塩基長のODN2種類だけで低分子化合物の担持・徐放には十分なゲルが出来ることを発見、そのゲルに抗がん剤ドキソルビシンを担持させて担がんマウスに皮下投与したらドキソルビシン溶液よりも高い抗腫瘍効果を示したとの論文が、昨年12月の『Journal of Controlled Release』誌に掲載された。投与部位に顕著な炎症も観察されなかったという。


 論文の責任著者が、西川元也(まきや)・東京理科大学薬学部教授・薬学科主任(写真)だ。学生時代から、さまざまな手段によるドラッグ・デリバリー・システム(DDS)開発に取り組んできた。