そしてDNA構造体へ
さて、DNAナノ構造体を扱い始めたのは、細胞DDS研究を始める3年前、05年からだ。
04年にハワイで開かれたCRS大会でコーネル大学のダン・ルオ准教授(現・教授)が、3本のODNでY字型DNAを構築してから末端の接着性塩基配列を結合酵素(DNAリガーゼ)で結合するとDNAデンドリマー(樹状構造物)になると発表していた(同年の『Nature Materials』誌に論文掲載)。
使い道が広そうなことに強い興味を覚え、しかしルオ氏に生物との相互作用を検討している様子がなかったことから、これは鉱脈が埋まっていると思った。
1年ほど構想を温めた後、ルオ氏の成果を参考に、部分的に相補となるODNを新たに設計した。それを3本から8本使うと、ほぼ単一の構造体となり、その構造体はODNの本数と同じ数の足を持っていることがわかったため、多足型DNAナノ構造体(ポリポドナ)と呼ぶことにした。ここまでを08年の『Immunology』誌や12年の『ACS Nano』誌で報告した。
いよいよ生体で使うと考えた場合に障害となりそうだったのが、DNAリガーゼが思わぬ機能を発揮しかねないことだった。そこでDNAリガーゼなしに自己集合してゲル化するポリポドナと、その構成ODNを開発、特許を出願した後の14年4月、『Journal of Controlled Release』誌で報告した。多彩な生理機能を持たせようと考えると、6種類のODNでポリポドナを形成させる方法が最も有望そうに見えた。
面白い物性を持っているので薬に使えないかと複数の製薬企業に持ち掛け、しかしODN1本でもCMCが大変なのに6本なんて検討するまでもない、と異口同音に断られた。
16年、2本のODNの中央部分を相補的にすると、その部分だけ2本鎖の全体としては漢字の「工」のような構造体(タクミ型)が出来上がり、その足同士で絡み合うよう「工」を組み合わせても自律的にハイドロゲルとなることを『Nanomedicine: Nanotechnology, Biology and Medicine』誌で報告した。このときは生理活性のあるODNのキャリアに使う想定で3種類のODNを用いていたが、ODNをゲルだけに使うなら2種類で済むはずで、そこを突き詰めたのが今回の報告だ。