株式会社ビードットメディカル(江戸川区)は、放射線医学総合研究所(放医研)発のベンチャーだ。2017年設立とはいえ、古川卓司氏(代表取締役社長)は、千葉大学大学院時代に放医研に入所し、20数年にわたり粒子線がん治療システムの設計・開発および治療運用に携わってきた、この分野の第一線で活躍するプロフェッショナルである。「MEDICA 2022」の東京パビリオンには、「超小型陽子線がん治療装置」を出展した。
なぜ“陽子線” を選んだのか、この装置によって変わること・変わらないこと、国内外での今後の展開について、古川氏に聞いた。
■受けたくても受けられない陽子線治療
―古川さんが「医用原子力だより」などに寄稿された文献を見ると、「Magnetic Gantry(磁気式ガントリー)」を可能にした「偏向電磁石」や「スキャニング電磁石」が小型化のキーワードだが、素人には理解が難しい。
陽子線照射装置を小型化するにあたり、巨大なガントリーを回転させるという発想から脱却して開発したのが「Magnetic Gantry(磁気式ガントリー)」で、それを可能にした当社の独自技術を紹介することが多いのです。ただ、自動車と同様、数多くの部品で使っている個々の技術や仕組みを正確に理解するのは難しいかもしれません。技術の話をする前に、まず知っていただきたいのは、陽子線治療の歴史と現状です。
世界で初めて陽子線の治療応用が始まったのが約70年前。日本での臨床研究は約40年前に始まり、約20年前から陽子線施設で本格的な治療が行われるようになりました。従って、陽子線治療の臨床的なエビデンスは十分に蓄積しています。2016年に小児腫瘍(限局性の固形悪性腫瘍)が公的保険適用となって以降、2018年、2022年と適用範囲が拡大してきました(図1)。国民皆保険ですから、これら8つのがんについては陽子線治療を受けられるようになったはずなのに、患者さんが希望しても容易に利用できないのです。
というのも、国内の陽子線治療施設は全国で19ヵ所。東京都をはじめほとんどの県にはありません。人口密集地には大きな病院があっても、これまでの装置は大きいので入れたくても入れられませんでした。海外でも似たような状況であることを薄々感じていましたが、海外の大都市でも同じような状況であることがわかってきました。