■業界の活性化にも期待


―陽子線治療の普及に向けて必要な連携先は。

 やはり大学病院でしょうね。多くの大学病院の先生方が当社の装置を欲しがってくれていますが、予算の話だけではなく、弊社の与信の問題があると思います。国研発のベンチャーとはいえ、社歴は浅く、薬事未承認(2023年7月20日現在)です。導入額は従来の装置の半分とはいえ、「長期間に渡る保守は大丈夫か」という話がどうしても出てくるのです。かといって「この装置を置いていきますから使ってみてください。共同研究しましょう」というわけにもいきません。今後はまず実績をつくり、株式上場をして、与信を上げていく必要があると痛感しています。

 今は受注から治療開始まで2~3年を見ていただいています。装置を収める建物については、駐車場など病院の一角を使って新築する例もあれば、病院内の使える部屋を改修する例もありますが、いずれも工事にそれなりの期間がかかります。陽子線治療装置そのものも多様な部品からできており、超電導線など特殊な材料は高価かつ長納期です。その間、当社が立て替えなくてはいけません。もう少し定期的に受注が見込めるようになってくれば前もって仕入れて、稼働までの期間を短くできるはずです。


国内で導入を決めたのは大学病院ではなく江戸川病院グループだった。

 江戸川病院は、日本でも有数の放射線治療に力を入れている私立の病院です。同じ江戸川区繋がりということもあり、院長先生が英断されたわけですが、なかなか決心するのは難しかったのではと拝察します。


―陽子線治療の普及にあたって医療側で使いこなす人材の育成は。

 先ほどから自動車に例えていますが、運転方法を身に付けていれば他の車種でも大丈夫なのと同じで、X線治療をやっている先生なら、慣れれば十分に使いこなせると思います。これから社会がさらに高齢化していく中で、手術できないがん患者さんが増え、放射線シフトがもっと進むはずです。陽子線に限らず、そもそも放射線治療医や診療放射線技師不足が問題になっています。「こういう業界がかっこいいぞ」「人のためになっているぞ」ということをもっと世に知らしめて、若者たちがこの分野にどんどん流れてくるようになることを願っています。



[2023年7月3日取材]

※このシリーズでは、東京都の支援を受けて世界最大級の医療機器見本市「MEDICA/COMPAMED2022」に出展した、都内の中小ものづくり企業及びスタートアップ企業(SMEs:Small and Medium Enterprises)の技術と強み、ビジョンを紹介している。

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本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。