■超小型装置の導入で変わること、変わらないこと


改めて、陽子線治療を普及させる上での課題解決を可能にした独自技術のポイントについて。

 小型化の鍵は、先ほど話題に上った「Magnetic Gantry(磁気式ガントリー)」「スキャニング電磁石」です。

 一般的な陽子線照射装置で採用されている回転ガントリーは、患者に対して360度任意の角度から陽子線を照射するために複数の巨大な電磁石を回転させ、高さ約12m、重さは約200tにもなります。

 一方、Magnetic Gantryは、独自開発した2種の電磁石を用い、ガントリーを回転させることなく任意の方向からの照射を可能にした特許技術です。加速器で加速された陽子線は振り分け電磁石を通過し、適切な角度で偏向電磁石に入射します。特殊な形状に設計された超伝導電磁石により、陽子線の軌道は入射角度に応じて標的部位に向けてさまざまな角度から照射することができます(図3)。陽子線は磁力で軌道を調整するのですが、強い磁力を出せば出すほど機械を小さくできます。そこで、超電導技術を用いて強力な磁場を発生させ、電磁石自体もコンパクトにしました。

 また、従来はビームを走査して照射野を確保するために必要だった2~3mの距離を、独自のスキャニング電磁石によって約1mに短縮しました。さらに、放医研時代に重粒子線がん治療での臨床運用に世界で初めて成功した呼吸同期スキャニング照射の技術も活用しています。


―貴社は位置決め室と「陽子線照射室」を分けて、動く治療台で患者を移動させ、「AIスケジューラー」で管理する方法を提案している。これらによって治療フローは変わるのか。

 陽子線の照射は1回当たり15~30分、照射時間そのものは1~2分程度で、ほとんどの時間がコンマ数ミリの精度を要する位置決めにかかっています。両方を同室で行うと治療室の占有時間が長くなってしまうという課題に対して、治療室の運用を効率化しようという提案です。ただ、陽子線治療の基本的な流れや照射回数、治療効果は従来と変わりません。従って、昨年に行った薬事の申請も治験は伴わず、機械そのものの性能について審査されています。我々は全く新しいアイディアで新しい装置の開発に取り組んでいるベンチャーですが、治療の医学的根拠は変えずに、陽子線治療をより身近なものにするために当社独自の技術で小型化したとも言えます。