シリーズ『くすりになったコーヒー』


 前世紀から続いた「コーヒーと健康」の疫学研究の中で、最も信頼できるエビデンスは、毎日飲む3杯前後のコーヒーが、慢性肝炎、アルコール性肝炎、脂肪肝、NASH(非アルコール性脂肪肝)、肝硬変、肝細胞がんなど、実に幅広く肝臓病を予防することです。しかし、毎日飲むコーヒーの種類と健康の関係について、情報は不足しています。


●疫学研究でコーヒーと言えば、どんなコーヒーでもコーヒーなのだ。


 これまでの原著論文を読むと、レギュラーとインスタントの区別、およびカフェイン入りとデカフェの区別ぐらいしかありませんでした。イタリア人が飲むカプティーノや、フランス人が飲むカフェオレを飲む人が、レギュラーのブラックを飲む人と区別されているとは限らないのです。エスプレッソを区別した論文も少数しかありません。更には、砂糖やミルクを加えて飲む人と、ブラックを飲む人が区別されているかというと、そうでもないのです。


 まとめると、「コーヒーと健康」の疫学研究では、飲んでいるコーヒーの種類を問題にすることは少なくて、とりあえず「コーヒーを飲んでいる人」と「コーヒーを飲んでいない人」の区別しかなかったのです。これではあまりにも乱暴ですが、これを明確に区別しようとしても、「区別できない」ことにすぐに気づくのです。何故なら、5年10年もの間、ずっと変わらず厳密にある種類のコーヒーだけを飲んでいる人は少数派だからです。


●どんなコーヒーが最も確かに肝臓病を予防するのか?


先ず、英国バイオバンクに登録しているコーヒーを飲む384,818人と、飲まない109,767人を抽出して、更に肝臓病を鑑別して、慢性肝炎(CLD)3,600人、これに脂肪肝を加えると小計5,439人、肝細胞がん(HCC)が184人、CLDによる死亡301人に層別しました。次に、飲んでいるコーヒーの種類を、全てのコーヒー、デカフェ、インスタント、エスプレッソを含めたレギュラーの4群に層別して解析しました(詳しくは →  こちら)。結果を図1に示します。


 先ず強調して指摘しておくことは、この論文の表題“All coffee types decrease the risk of adverse clinical outcomes in chronic liver disease: a UK Biobank study.”にあるように、どんなコーヒーであろうとも、コーヒーを飲みさえすれば慢性肝炎(LDL)による死亡リスクは下がるということです。一見インスタントコーヒーの下がり方は、デカフェやレギュラーに比べて少ないように見えますが、データの幅には重なる部分があって、統計計算しても有意差は無いのです。


 では、慢性肝炎に罹るリスクを比べてみて下さい。どのコーヒーでもデータの幅が狭いので、レギュラーコーヒーによるリスク低下が、他のコーヒーに比べて大きいことが窺われますが、実際に誤差の幅に重なりが無いので、統計学的にもレギュラーが優れているという結果です。LDLに脂肪肝を加えても数値はほとんど動きません。


 以上をまとめると、慢性肝炎や脂肪肝の予防にとっては、レギュラーコーヒーが優れているが、死亡リスクで見るとどのコーヒーでも差は見られないということになります。



  最後に日本人について触れておきます。人間ドックデータによれば、日本人の3人に1人が脂肪肝で、死亡率は健常者の2倍だということです(図1の赤字を参照)。早いうちからリスクを軽減するために、生活習慣の改善が指摘されていますが、筆者がお勧めしたい生活習慣は、何といっても毎日欠かさずコーヒーを飲むことです。


●後悔は先に立たず・・・知識は力と心得て、体にあった美味しいコーヒーを探してみては如何でしょうか?

(第446話 完)