シリーズ『くすりになったコーヒー』
予想以上に速い展開でした。2005年、米国消化器学会誌「毎日コーヒーを飲んでいると肝臓癌リスクが減る」との論文を切っ掛けに、臓器癌とコーヒーの調査結果が続々と発表されました。世界各地から同種論文を集めてメタ解析が実施され、つい最近になって、メタ解析を更にまとめた「まとめのまとめ」とでも言うべき論文が発表されました。コーヒーの予防効果が大きい臓器から順に並べるとこんな具合です。
肝臓、口喉咽頭、皮膚、子宮体、食道上皮、膵臓、大腸、前立腺と続き、この辺から良くも悪くもコーヒーの影響はないという臓器が、乳腺、甲状腺、卵巣、胃、膀胱、食道腺と続き、最後に肺癌の調査では喫煙と受動喫煙の影響を消し切れないこと、喉頭癌では実は熱い飲み物が原因だったとの、しかるべき研究機関の発表があって、ほぼ調査は終息に向かっている気配です(第290話を参照)。
では、コーヒーを飲めばあらゆる癌になるリスクが減るのかというと、1つ気がかりなのは血液の癌、白血病です。どういうことかと言いますと、妊娠中に飲んだコーヒーの影響が、生まれてくる子供に出るというのです(詳しくは → こちら)。
これについては異論もあり、更なる調査が必要ですが、そういうことは専門家に任せておくしかありません。コーヒー消費者の立場から言えば、妊娠中はコーヒーを制限するのが好ましいので、それさえ守っていれば生まれる子供の白血病をことさら警戒する必要はないのです。
もう1つ気がかりなのは、健康な人ではなく、一旦癌に罹った人がコーヒーを飲むとどうなるでしょうか?これについて実は恐ろしい話があるのです。
●抗酸化性ビタミンであるA、C、E、カロテンなどを飲んでいると、癌が増悪する!(第252話と第280話も参照)。
言い出したのは国立がん研究センターと東大医学部の研究グループで、発表は2012年のプレスリリースでした。それからすでに5年近くたっていますが、同じグループからの更なる発表はありません。何とも言いっ放しの無責任な話です。そしてこの間、世界の医学誌には、抗酸化薬の光と蔭、表と裏、善か悪か、友か敵か・・・などなど、抗酸化薬、抗酸化食品と癌患者の関係が取りざたされているのです。この仮説は正しいのか、それとも間違いなのか、今は未だ解りませんが、もし正しいとすれば恐ろしいことです。
さてコーヒーは、あらゆる食品の中で抗酸化作用が最も強いものの1つです。ですから癌になってから毎日コーヒーを飲んでいたら癌が増悪してもよいはずです。そこで筆者は医学論文のデータベースを可能な限り調べました。しかし今のところ癌増悪説の確かな証拠は出てきません。むしろ前立腺がんと大腸がんに限れば、コーヒーは重症化、再発、抗がん薬耐性などの転帰を予防する傾向さえ見受けられます(第291、295話を参照)。
このように、コーヒーと癌の関係は疫学研究をほぼ終了して、新たな段階に移ってきました。これからはコーヒーの存在価値は益々高まって行くと思われますが、健康食品とかトクホとか言わずに、なくてはならない大人の飲み物であり続けて欲しいものです。
ではこれにて「癌の珈琲論」は一旦終了といたします。
(第308話 完)
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