シリーズ『くすりになったコーヒー』


 今から30年ほど前の話です。北米の合成麻薬工場でパーキンソン病が流行しました。犯人は合成麻薬ペチジンの副産物で、粉を吸い込んだ工員がパーキンソン病に罹ったのです。


 この事故の教訓から、原因不明のパーキンソン病についても、体内でできる何か神経毒が関係しているとの仮説が生まれました。次はその1例です。


●脳でできるトリプトファン系の神経伝達物質(図の1)が、酵素モノアミンオキシダーゼ、通称MAO(マオ)酵素で酸化されると、神経毒(図の2)となり、それが脳神経を破壊してパーキンソン病になる。



 ここでもう1つ重要な観察がありました。


●喫煙者はパーキンソン病になり難い。


 この驚くべき事実は、コーヒーに先立つ喫煙の疫学研究で明らかになったことです。そしてタバコの煙のなかから、MAO酵素を阻害するハーマンとノルハーマンが見つかったのです。


●ハーマンとノルハーマンはコーヒーにも入っているし、ハマビシ科の乱用薬用植物にも由来する。


 そうです。喫煙の効果に比べれば弱いのですが、コーヒーを飲む人はパーキンソン病に罹り難いのです。だからと言って、コーヒーを飲みながらタバコをブカブカ吸いまくってはいけません。パーキンソン病にならなくても、発癌リスクが高まります。


 ハマビシ科の植物にもハーマンが入っています。これには同類の化合物が色々入っているので「ハルマラアルカロイド」と総称されています。ハルマラはある種の高揚感を起こすので乱用薬物との見方もあり、厚労省も気にしています(詳しくは → こちら


 製薬業界を見てみますと、パーキンソン病の新治療薬としてMAO阻害薬のラサギリンが期待されています。この新薬は、図と同じような神経毒産生を抑えること以外に、パーキンソン病で不足する神経伝達物質ドーパミンを増やしてくれます(詳しくは → こちら


 更にハーマンやノルハーマンには発癌物質の発癌性を強める作用が指摘されています。従って、ハルマラアルカロイドを乱用したり、喫煙習慣を続けていますと発癌リスクを高めることになるのです(詳しくは → こちら


【専門家の方へ】つい最近、ハーマンがCYP1A1を誘導して、ベンゾピレンの発癌性を高めると発表されました(詳しくは → こちら
くすりはここでも諸刃の剣です。


【珈琲好きの方へ】ご安心ください。コーヒーは発癌リスクを下げるとの発表がたくさんあります(第606970757678話を参照)。


(第83話 完)


栄養成分研究家 岡希太郎による
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