聴衆はこぶしを振り上げ一斉に応じる。
「ブッコワース!」
SNSでの合言葉が、リアルな世界で共有され、一体感を演出する。立花氏は「気持ちいい! コンサート会場にいるみたい」と満足げだ。
●事実を見極める目はあるのか
最前列から5列目くらいにいた私は、拍手も声もあげていない。それに気づいた隣の男女4人のグループが、ヒソヒソ話しながら訝しげな視線を送ってくる。既成勢力とされる記者だと見られたのか、他陣営の回し者が紛れ込んでいるとでも思われたのか。戦いの狼煙を上げている敵陣に放り込まれたような、居心地の悪さを感じた。
聴衆のあちこちから、立花氏に向けた「ありがとう!」の掛け声が聞こえてくる。“真実”を教えてくれた彼への感謝の気持ちだ。
立花氏の出現によって、告発文書問題をめぐる関係者の構図が逆転していく。新たに善と悪とに色分けした「真実」を知らされた聴衆は、ひとりぼっちの斎藤氏を救うことこそ正義だと信じる。そして「自分たちこそが正しい」という気概に満ちている。立花氏は、人の心をかき立てるナラティブ(ストーリー)を描くことに成功したのだ。