そこに、斎藤氏が登場する。弁士が交代しても、群衆はその場に居残る。おそらく数千人に達しただろう。選挙の街頭演説と言えば、支援組織が動員をかけて人を集めるのが定番だ。だから、聴衆からは「やらされている感」が漂う。だが、目の前にいる支援者は、明らかに前のめりだ。気づかせてくれた真実を信じ、正義を貫く高揚感に満ちている。
この日は誕生日だという斎藤氏に花束が贈られると、熱気は最高潮に達する。斎藤氏は背筋をまっすぐにしたまま90度のお辞儀を繰り返す。
いつものように落ち着いた声で、これまでの実績をアピールする。財政再建のために県庁舎の改築費用を抑え、公用車のセンチュリーを廃止し、5期20年間の井戸敏三県政からの脱却を目指してきたこと。県立大学の無償化や有機農業の推進、デジタル商品券、学校の教室にクーラーを取り付ける近代化にも着手した。
「(今回の選挙は)日本の社会のあり方を定める大事な分岐点。メディアの報道が本当に正しいのかどうか。おねだりと言われましたが、おねだりなんか私はしてないですから」
そう言うと、笑いとともに、あちこちから「ファイト!」「負けるな!」の声が飛ぶ。いわれなき嫌疑をかけられた悲劇のヒーローを励ます民の声だ。数々の選挙取材を重ねてきたが、これほど候補者と聴衆の距離が近いと感じる街頭演説を聞くのは初めてだ。
●フィルターバブルに見舞われる
軽い夕食を取った後、ホテルに入ってTikTokをのぞいてみる。尺の長いYouTubeより、ショート動画のほうが効率的に情報を集めることができる。そこで気になった動画をYouTubeをたどって、じっくり見る。