先ほどまで行われていた姫路の街頭演説の様子が、すでにアップされていた。スマホの撮影は、このためだったのだろう。その動画を切り抜いてTikTokに投稿された演説風景が次々と画面に現れる。斎藤氏の演説風景にHIPPYの「君に捧げる応援歌」を合わせて「11/15 姫路駅前 これが民意」とのメッセージが添えられている。2階デッキからロータリーを埋め尽くした圧倒的な群衆を映した動画には、どん底から這い上がる旋律を奏でるドラマ「GOOD LUCK」のテーマ曲が流れている。「みんなに本当の情報広げて知事選成功させよう」と訴える動画もある。
私の嗜好をアルゴリズムが察して、同じような動画ばかり表示されるフィルターバブルに見舞われているのだ。これらの動画がさらにリプライされて、拡散されていく。何十万回も。
これまで政治に関心のなかった県民に向けて政治参加を促すツールは、刺激的で躍動感にあふれている。ひとたびSNSを覗けば、圧倒的な数の動画で「正義と真実」のエコチェンバーから抜け出せなくなるのだ。
告発文書問題をテレビや新聞で追っていた人と、ネットで引き込まれた人。その媒体によって深い分断が生まれているはずだ。問題の行方にモヤモヤ感を抱いていた人が、SNSで立花氏の明快な正義・真実論に触れ、心を揺り動かされる。そして見たこともない熱気を帯びた現場に駆り立てられる。そんなことを考えながらTikTokを見ていると、あっという間に3時間が過ぎていた。私のTikTokには、検索でもかけない限り対抗馬の稲村和美前尼崎市長の動画は、ほとんど流れてこない。
投開票日までの残り僅か。さらに大きなうねりとなって先鋭化していく。既成の価値観に対する怒りの感情は憎悪をかき立て、メディアや百条委員会のメンバーへの激しい中傷誹謗に発展していく。
●側面支援の動画が推進力に
こういったネット上の現象をいち早く分析したネットコミュニケーション研究所のレポートによると、YouTubeのショート動画の合計視聴者は、斎藤氏と稲村氏ではあまり差がないにもかかわらず、斎藤氏を応援した立花氏の動画の合計視聴者数は1500万回に達している。それを切り抜き配信された動画も1299万回再生されている。それ以外にも著名ユーチューバーが投稿で斎藤氏を応援する解説動画をアップしている。つまり斎藤氏本人のSNSより、立花氏らによる側面支援が大きな推進力になったことがわかる。
17日の投開票結果で、斎藤氏は圧勝した。対抗馬の稲村氏に13万票以上の大差をつける110万票を獲得した、奇跡に近い返り咲きだ。